20120715
天理参考館
奈良国立博物館
サンデートーク
平成24年(2012)は、和銅5年(712)に『古事記』が撰上されてから、ちょうど1300年の記念の年に当たります。
『古事記』は、この国の建国の由来と、7世紀前半の推古天皇(554~628)までの歴代天皇のことを記した書物で、まとまった分量をもつ文献としては日本最古のものです。その編纂は天武天皇(631?~686)の時代に始まり、一時の中断を経て、元明天皇の時代に完成しました。序文によれば、天皇の命を受けた太安萬侶(?~723)が、稗田阿礼(生没年不詳)の暗誦する文を筆録したといいます。
この展覧会では、『古事記』の現存最古の本(真福本)をはじめとする諸写本、『古事記』編纂と同時代に書かれた文字資料、本居宣長をはじめ後世に『古事記』を研究した人々の著作、江戸時代末から明治期に出版された絵入り本などを展示し、『古事記』という書物が1300年にわたって歩んできた、その軌跡を描きます。
第66回企画展
「鉄道絵葉書の世界」
展示詳細
現代ではインターネットが普及し、電子メールや各種コミュニケーションツールの発達により、早く便利な情報のやりとりが可能となりましたが、手紙や葉書にはそれらには代えられない質感があります。そして美しい風景やモノを印刷した絵葉書には、今なお格別の趣きがあり、美的所有欲を満たすものも少なくありません。
近代日本の郵便制度は、鉄道と同様に明治初めにイギリスより導入され、それまでの飛脚に取って代わりました。その後、明治30年代に絵葉書の制作・使用が認められ、万国郵便連合加盟25年記念絵葉書や日露戦争の記念絵葉書発行を契機として、一大ブームが起こり絵葉書を収集対象とするコレクターも増えました。
今回展示する資料は、主に鉄道会社等が制作したものや交通にまつわる図柄を扱った、明治から昭和初期の絵葉書で、沿線各地の名所旧跡や年中行事、路線開業の記念等様々な題材が、モノクロ・カラーや手彩色の写真・イラストで様々な印刷方法により印刷されています。
しばし小さな絵葉書に詰め込まれた美しい世界に浸り、懐かしい鉄道車輌や全国各地の名所旧跡、観光地をめぐる旅に出てみてはいかがでしょうか。
【絵葉書のはじまり】
個人的に交換するカードとしては、世界初の国際博覧会を企画運営したイギリス人ヘンリー・コールが、1843年にクリスマスカードの原型のようなものを作成したといわれている。その後、官製葉書は1870年こごろにヨーロッパ各国に順次導入され、当時勃発した普仏(ふふつ)戦争に関連する図柄を印刷し、使用したのが絵葉書の最初といわれている。
日本では、明治4(1871)年より前島密の尽力で郵便制度が始まり、同6(1873)年には通常の官製葉書が発行された。当初の官製葉書は内側に通信文を書く形式であった。日本が鉄道を導入したのはイギリスに約50年遅れてのことであったが、官製葉書は欧米の採用からわずか数年で導入したことになる。しかし、私製葉書が認められるのは遅く、同33(1900)年のことであった。逓信省が同35(1902)年に万国郵便連合加盟25周年を記念して発行したものが、日本最初の官製絵葉書で、6種類1組5銭で大変好評であったという。そして同37~38(1904~1905)年日露戦争の際に作成された戦役記念絵葉書が呼び水となり、空前の絵葉書ブームが到来した。
絵葉書は、その時々の社会的な出来事やイベントを伝えたり、伝統的な風俗習慣や風光明媚な名所・美人画などを観賞するため、また時節の挨拶のために製作され、鉄道など最先端の産業技術も題材とされた。
【彩られた絵葉書-手彩色】
現在ではデジタルカメラや携帯電話付属のカメラが普及し、誰でもどこでもいつでも気軽に簡単に写真を撮ることができるが、明治から昭和はじめにかけてカメラはまだまだ普及途上で、撮影のためのガラス乾板や紙焼き写真は大変高価で貴重なものであった。そうした点で写真が刷られた絵葉書は、庶民が気軽に入手できる「写真」であった。
絵葉書が盛んに作成されるようになった明治30年代の日本には、手軽で安価にカラー印刷する技術はまだなく、コロタイプ印刷されたモノクロの写真に、主に内職の女性が筆で一枚一枚色を塗る「手彩色」を施された絵葉書が重宝された。これは手間と根気のいる作業で、手慣れた職人でも彩色するのは一日に数百枚程度であった。
当時の写真撮影技術で人物や車両など対象物を鮮明に撮るには露光時間を長くする必要があり、コントラストの関係で空など明るい部分が白とびを起こし、雲などが写らずのっぺりと平板になることが多い。そういった空にも、想像でグラデーションの着色がなされた。着色される色数も多くなく、分業体制で見本に従って作業を行っていたようだが、同じ写真でも業者によって配色が異なり(厳密に言うと同じ業者でも一枚一枚微妙に異なる)、限られた色数をいかに配色するかで、対象物にどのようなイメージを持っていたのかが分かり大変興味深い。
【鉄道絵葉書】
制作された多種多様な絵葉書の中でも、鉄道は大変人気のある題材として重宝された。現在でも、鉄道ファンや絵葉書収集家にとって重要な収集の一ジャンルである。最先端の乗物であり、また経済活動の象徴である鉄道の様々な車両は言うに及ばず、付帯施設である駅舎や市電が走る町並みからは当時の風俗も垣間見ることができ、それは時代を映す鏡でもあったといえよう。全国各地を力強く駆けぬける蒸気機関車の姿は、人の心を掴んで離さない。